大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)4546号 判決 1958年5月31日
事実
原告は被告に対し原告所有の本件宅地二筆についてなされた大阪法務局中野出張所昭和三一年一〇月一五日受付第二六、六八九号原因同年同月一日代物弁済予約、仮登記権利者被告なる所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続を求めた。その請求原因として、第一次的に右仮登記は被告が他の用途に用いると申し向けて原告から詐取した書類をほしいままに使用してなした原因を欠く無効の登記であると主張し、第二次的に本件仮登記が代物弁済予約を原因としているのにかかわらず原被告間にはなんらその基礎となる債権関係が存在せず、従つて代物弁済予約もありえないから右仮登記は原因を欠き無効であると主張した。被告はこれに対し、原被告間には将来被告が資金捻出の必要が生じたときは被告において本件宅地につき資金借入先に対し抵当権を設定することに利用できることを目的とする本件物件の無償譲渡契約がなされており、右仮登記はこの物権変動の順位保全のため合意の上なされたものであるから有効であると主張した。
理由
証拠によれば、被告会社は昭和三一年六月末頃経営に行詰りを来し内整理を発表し債権者団体によつてその運営に関し債権者会議が開かれたが、右会議において、被告会社を再建し事業を継続すること、被告会社の重役である原告及び訴外A、Bは被告会社を経営不振に至らしめた責任上その個人財産を再建に要する資金捻出のための担保資産として利用させる目的の下に被告会社に無償譲渡することが決議され、右会議に列席していた原告等重役はこれを承諾し原告は本件物件を無償譲渡することを約した。そこで被告会社は将来現実に資金を他から借り入れる必要が生じたときは右物件につき所有権移転登記をなし借入先に対し抵当権を設定する予定の下に、一先ず右譲渡契約による権利変動の順位保全のため原告より必要書類の交付を受けて本件仮登記をなした。このように認めることができ他に以上の認定を左右するに足る証拠は存しない。
よつて考えるに原被告間には右仮登記の原因として公示されてあるような代物弁済の予約ないしその基礎となる債権関係の存在しないことは原告の主張するとおりであるけれども、右に認定した如く、原被告間には、本件物件を抵当権設定の目的にのみ利用するという一種の信託的譲渡契約があるから被告は右契約の効果としての所有権移転請求権を有するものである。従つて本件仮登記の原因としては被告会社は代物弁済予約とすべきではなく贈与とすべきであつたのである。然らば右の如き実質上の権利関係と仮登記との間の相違は仮登記の無効を招来するものであろうか。思うに右の場合は仮登記に記載されたとおりの物権変動は存在しないわけであるが、物権の変動自体は実質上存在しその結果である権利帰属の点において結局仮登記と実質関係とは符合するから右仮登記は有効であると考える原告の主張はいずれも理由がないとして請求を棄却した。